TOPインタビュー

NET ZERO 2035
技術移転をテコに
サプライチェーン排出量管理の環を築く

――「NET ZERO 2035」を打ち出した狙いを聞かせて下さい。


 当社が排出する温室効果ガスの排出を正味ゼロにする「ネットゼロ」の達成時期を、2035年に設定しました。先のCOP26では、産業革命前の平均気温に対して1.5℃以下に抑えることが人類共通の政策目標となり、未来を変えるためには、向う10年の行動が決定的であることが広く認識されました。

 本当は2030年までにゼロに到達する道筋を立てたかったのですが、残り9年ではさすがに時間が足りず、開発中のテクノロジーの実装時期を考えると、2035年の達成であれば現実的だとの判断に至ったのです。ちょうどそれが当社の創業100周年の年にあたることもあり、ゴールとして意識しやすいという面もある。それでも政府間パネル(IPCC)の目標である2050年に比べて15年も前倒しのアグレッシブな計画。恐らく、コンクリート業界では世界的に最も早いネットゼロの達成目標のひとつだと言えるのではないか。

――コミットメントという言葉を使っていますが。


 当社は自己治癒コンクリート「Basilisk」の国内製造を開始した20年11月をもって「脱炭素第一」(Decarbonization First)を掲げた経営に舵を切りました。2035という期限をつけたのは、脱炭素に向けて「なんとかがんばってみます」という努力目標ではなく、必要となるテクノロジー開発とその実装を含んだ冷徹なアクションプランであり、企業としてのいわば誓約だということです。期限をつけて、敢えて自分たちを追い込んだともいえる。その方が、テクノロジー開発がより加速し、結果的にイノベーションが起こりやすい。だからコミットメントという強い言葉を使っている。

 日々排出しているCO2の量を工場別、製品別にデータ収集する仕組みを構築し、すでに実現したCO2削減技術に、これから開発する低炭素化技術などをさらに組み合わせ、削減量の積み上げを行っていく。素材系の取り組みは当然だが、こうした温室効果ガスに係る非財務データを収集してブロックチェ―ンベースのグリーントークンを業界内でやりとりする仕組みを構築し、CO2削減の推進力にすることも計画している。総力戦だ。

――期限付きネットゼロでイニシアティブを発揮するとはどういうことですか?

 脱炭素は期限が差し迫った全地球的な課題だけに、低炭素化技術は企業の中に抱え込むのではなく、広く普及させなければ意味はない。多くの経営者はその必要性を感じているが、どこからどう手を付けていいか、わからないという声も多い。幸い当社は、将来のインフラの大規模改修工事などを戦略的に削減し、CO2発生量を削減できる自己治癒型のコンクリートというテーマに向き合ってきたこともあり、比較的早く脱炭素の重要性に気がつくことができた。

 先に気がついたものには気がついたものの責任があると思います。監督官庁や業界団体が政策を決めるのを待ってから行動するのでは遅いのです。IPCCの交渉を待つより、NPOや機関投資家やグローバルな金融機関が主導して産業界の行動に変革を迫る今の状況をみると、強くそう感じます。当社と同じように気がつき、ネットゼロに挑戦しようと志すプレキャストメーカーや生コンメーカーなどの仲間を全国にどんどん増やしながら、“期限付き”ネットゼロ運動のイニシアティブを大いに発揮して行きたいと考えています。

 大規模修繕を繰り返すことを前提とする従来型のコンクリート事業を、自己治癒コンクリートに切り替えることで未来のCO2発生の削減効果を先取りするなど、当社は脱炭素に関する様々な技術を手掛け、先駆的に取り組んできた自負があります。同じゴールを共有できる同業者と提携して技術移転を急ぎ、テクノロジーによって進化したスマートなセメント・コンクリート素材は脱炭素の時代に欠かせない、という新たな価値を世の中にみせて行きたいですね。

 セメント・コンクリートはセクター別でCO2排出量が最も多い産業のひとつではありますが、水の次に大量に使われる素材でもあることからCO2の再固定化や資源としての利用を行えば大幅なカーボンオフセットが可能な産業でもあるのです。例えば当社が国内で初めて実装にこぎつけた北米発の低炭素コンクリート技術「CarbonCure」(カーボンキュア)は、高炉スラグの利用技術と組み合わせることによって、さらにセメント使用量を大きく削減することができます。骨材にもCO2を包摂する代替品を使用すれば、素材だけでかなりの部分がオフセットできるのです。

 当社ではPC技術を応用した陸上風力タワー工法の開発を進めていますが、この実証機の建設を通じて事業活動のエネルギーを大胆に再生可能エネルギーに切り替えることにもチャレンジします。

つくっては壊す、を繰り返す20世紀の成長モデルはもはや過去のものだが、かといって我々は縮小に向かうのかというと決してそうではない。成長でも縮小でもない、持続可能という新しい産業や企業の在り方を具体的に提示できたらと思っています。

 

――日本政府はカーボンニュートラルという表現を使っています。なぜネットゼロにしたのでしょうか?

 カーボンニュートラルは社会全体で実現されるべき姿を指すのに対し、ネットゼロは、個別企業の具体的な行動をうまく表現できると考えたからです。だれも温室効果ガスの発生を直ちに止めることはできない。しかし、セメント使用量の削減やCO2の再固定化などを組み合わせることで出した分は責任をもってオフセットし、最後はネットでゼロにするという道筋は描けます。繰り返しになりますが、こうした活動はやれるところからやるべきだし、気づいた人からスピーディーに行動に移すべきなのです。個別企業のネットゼロの総和の先にカーボンニュートラルという社会が到来するとの認識です。

――サプライチェーン排出量という言葉を少し解説して下さい。


 経済活動には必ず原材料の仕入れなどの上流工程があり、そして自社の付加価値を直接創出する工程があり、それを需要家にお届けして使っていただく下流工程がある。地球はひとつであり、経済活動はサプライチェーンで相互につながっているため、脱炭素の試みは自社の直接的な生産現場だけのネットゼロを考えるだけでは不十分ということです。この温室効果ガスの算定基準は国際的なプロトコールとして確立しており、当社のネットゼロはこうしたサプライチェーン排出量という基準に基づいて上流下流工程を含むすべてを対象にしているということです。

 コンクリート業界にいる我々がネットゼロを考えるとき、主要原材料であるセメント生産時のCO2発生量が最も大きなインパクトを与え、セメント使用量をいかに削減してコンクリート製品を世に供給するかが最大のポイントになります。生産工程でCO2発生量の少ないセメントを使用したくなるのは当然であり、セメントメーカーも生き残るには、CO2の発生を抑制したセメント生産方法を確立するしかないのです。

 同じように、コンクリート製品を使うゼネコンや施主も、そして政府や自治体も、サプライチェーン排出量の観点から、CO2の実質排出量の少ないコンクリートを使って施設整備するのが当たり前の世の中になるでしょう。脱炭素のアプローチはCSRと呼ばれる企業の社会的責任の段階を通り越し、企業の生殺与奪の権を握るまでになりつつあるのです。

 ネットゼロに取り組む未来を見据えた企業同士がお互い連携することによって、さらにCO2削減に貢献し、そこに需要や投資が集中する、そんな時代がすぐそこまで来ています。

 日本ではテレビを中心にSDGsが注目されていますが、これからはマネーの動きと社会課題が連動するESG(Environment〈環境〉、Social〈社会〉、Governance〈ガバナンス〉)経営にもっと着目した方がいいでしょう。海外では機関投資家がESG経営への本気度で投資先の企業を選別し、さらには化石燃料関連企業への投資を引き揚げるダイベストメント(Divestment)の動きさえ激しくなっています。今後、脱炭素化に取り組んでいない企業はマーケットで許容されなくなるし、こうした傾向は上場している大企業だけでなく、銀行による中堅中小企業融資の世界でも確実に強まるはずです。

 当社でもこうした時代の変化に即応しようと、先の取締役会でネットゼロを統括する経営幹部4名が任命されて脱炭素のイニシアティブをとるタスクフォースが組まれたほか、ESG経営担当として新たに3名の女性役員が誕生しました。ネットゼロに向けたEの動きをジェンダー改革を軸とするSの動きとともにパワーアップして推進する考えで、企業文化のさらなる変化を期待しています。(談)